· 

使いながら残して行く

 先日秋田県の横手市、増田町を散策しました。出張の帰りに少し時間がありましたので気軽に立ち寄っただけでしたが、歴史を感じる小さな街でした。増田地区は家の中に蔵のある内蔵(うちぐら)で知られていてテレビ等でも紹介されていますが、現在でも商店や観光案内所として使われています。驚きましたのは住みながら保存して、さらに観光者向けに住まわれている方が案内をして下さるという体験でした。ご先祖の営みやそれにまつわる様々な物や写真、書き物などが保存されていて思いの他、興味深く拝見しました。写真は明治時代に家屋全体が蔵として、集落の防火壁として健造された現在は重要文化財の指定をされています佐藤又六家住宅です。12代目の又六さんがご夫妻で案内して下さいました。

 鴨沂会館も昭和初期の建築物として増田町の建物に比べると新しいですが、多くの方に使って頂きながら保存しており、近代化遺産として平成18年の京都市の報告書に記載されています。木製の階段や昭和の雰囲気を残すホールを今後も公益資産として活用いただくべく運用して行ければと思います。そのためには補修や改修の費用も継続的に必要で、昨年夏より会館の北側の駐車スペースをコインパーキングとして委託運営していただき必要経費捻出に役立てる事ができるようになって来ました。

 京都では古い建物を残すか建て替えるかという議論が毎年のように起こっています。最近では京都大学の吉田寮が話題になっていますが、築106年の木造寄宿舎として使いながらよく保存されてきたと思います。老朽化が進み補修対策が必要な状況にありますが、現在週末に在寮生による吉田寮見学会というものが開かれています。住居スペースを含んでいますので普段は見る事の出来ないタイムスリップしたような空間を体験する事が出来ます。吉田寮は学生の自治会の運営で続いてきた国立大学でも数少ない寮の一つです。

 京都鴨沂会も発祥は1887年に京都第一高等女学校の同窓会として、府一を卒業した方々の独立した自治組織として活動し現在は公益法人となりました。吉田寮も同年代の1889年に第3高等中学校の寄宿舎として作られた建物を継承して現在に至っています。是非歴史を含めて継承しつつ活用していただく道を模索していただきたいと祈っています。

 経済や効率が最優先されてきました昨今ですが、それだけでは得られない何かを今一度考える時に来ているように感じています。京都鴨沂会の活動にご賛同いただける方が少しでも増える事を願っています。 岸本康